水影 – Double Reflection
2025.4.19-5.11
企画 菅亮平(美術作家 / SLAP総合ディレクター)
協力 iti SETOUCHI、Setouchi L-Art Project(SLAP)
会場 iti SETOUCHI
撮影(1−13枚目):橋本健佑
瀬戸内海に面し水源豊かな広島県で生まれ育った川本にとって、水というモチーフは幼少期から親しみをもって関心を寄せる対象でした。そして、広島市立大学芸術学部で工芸を専攻し染色を学んだ川本は、素材に対する実験に取り組み、発泡バインダーを用いて水面の波紋を表出する、独自の平面表現の様式を生み出します。
川本は、2023年から制作を行ってきた「Reflection」シリーズにおいて、水がもたらす二つの現象に着目してきました。一つは風景が水面に映りこむ現象で、もう一つは水の反射光が壁などに照り返す現象です。これらは、光学的には光の反射の法則で説明されるもので、どちらも一般に「水の反射」と言い表されます。
ただ、私たちの目に映るイメージとしては、一方は周囲の風景が水面の中に映りこみ、もう一方は水面の表情が周囲の風景に映りこむものとして、その作用は大きく異なっています。水面と周囲の風景が相互に影響し合うこれらの現象は、川本にとって光の存在と知覚のあり方について考える入口となっています。
本展の表題で示された「水影(みづかげ)」とは、前述した水面がもたらす「映り込み」と「照り返し」の二つの反射(Double Reflection)を包括する古語です。
日本語において「影」は多義的な含意があり、光そのものを表す一方で、ものの姿や形、あるいは絵画や写真・映像におけるイメージとしての虚像も意味します。「水」の光を介してうつろいゆく世界の虚実の境界を見つめ、「影」としての世界を絵画化する川本のパースペクティブは、日本語の文化圏の中で古来から育まれてきた世界観に基づいていると言えるでしょう。
本展では、発泡バインダーの作品に加えて、布の織り目の動性を活かして光のゆらぎを表現した新作も発表されます。工芸と絵画、二つの領域にまたがって創造性を探求する川本の新たなアプローチが提示される場となるでしょう。